トップ

会社案内

業務内容

実務情報

報酬料金表

リンク

免責事項



■裁判例情報


こちらのページは会員様向けとなっております。 m(_ _)m


■以下はサンプル

2016年05月13日
東京地判(長沢運輸事件)

■判決文:
省略

■内容:
60歳定年後に、定年前と同じ職務内容で、1年ごとの嘱託契約で再雇用する際に、賃金を約3割引き下げたのは、労働契約法20条違反となり無効。
嘱託社員の労働条件のうち賃金の定めに関する部分が無効である場合には、正社員就業規則の規定が原則として全従業員に適用される旨の定めに従い、嘱託社員の労働条件のうち無効である賃金の定めに関する部分については、これに対応する正社員就業規則その他の規定が適用される。
有期労働契約の内容である賃金の定めは、これが無効であることの結果として、正社員の労働契約の内容である賃金の定めと同じものになる。

2016年11月08日
東京高判(長沢運輸事件)

■判決文:
省略

■内容:
60歳定年後に、定年前と同じ職務内容で、1年ごとの嘱託契約で再雇用する際にも労契法20条の適用がある。
無期と有期の労働条件の相違についての不合理の判断は、幅広く総合的に考慮して判断する。
実際の調査結果でも定年到達時と同じ仕事をしていても賃金を下げている企業は多く、定年後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない。
年収ベースで2割前後賃金が減額になっていることが直ちに不合理であるとは認められない。

■解説:
地裁判決は、労契法20条違反となった場合に適用となる労働条件の部分に違和感がありました。
高裁判決は、過去の実態調査結果を根拠に労契法20条違反とならないとし、当該実態を改善するために行われた法改正の趣旨や法律条文(要件)を軽視している点に違和感を感じます。

もし最高裁まで争われたとしたら、会社側に不利な結果になるのでは?
労契法20条違反の要件は?
違反にはなった場合、無効となった労働条件はどのようになるのか?

当該ケースでは、会社側の主張は以下が考えられます。
○賃金等の労働条件は、定年退職後の労働契約として新たに設定したもの。
→労働者が賃金を含む労働条件に同意している。契約自由の原則だ! (→労契法20条適用は確定ですね)

○定年後再雇用制度は、高年齢者雇用安定法により義務づけられているものである。
→国の都合で定年後の労働者を雇っているのだ!(→同じ仕事内容で雇うことは求めませんね)

○定年後再雇用であることを理由に、正社員との間で労働条件の相違を設けているのであって、「期間の定めがあること」を理由として労働条件の相違を設けているわけではない。
→賃金を下げたのには正当な理由がある!(→実態の業務・責任に差異はありますか?有期・無期の相違だけでは労契法20条違反ですね)

○定年後再雇用では、年金支給との調整の関係から、以前より大幅に下げた賃金が世間一般では行われている。
→定年後の再雇用における賃金引下げは世間の常識だ!(→過去の統計では定年後再雇用=賃金減額が当然と行われていますが、格差是正のために法改正が行われた経緯がありますね)

では、実際に統計データや法律、過去の裁判例をあてはめて検討してみましょう。


■定年後の継続雇用制度と労働条件変更の実態

最近の統計資料から、 定年直後の賃金は大きく減少している実態があります。
また、賃金が下がることについての企業からの説明の36.6%が、「会社は雇用確保のために再雇用するのだから賃金低下は理解してほしい」とする内容です。
これに対して、高年齢者は、「仕事がほとんど変わっていない(33.7%)」、「仕事の責任の重さがわずかに変わった程度(21.2%)」、「会社への貢献度が下がったわけではない(20.6%)」、「在職老齢年金や高年齢雇用継続給付が出るからといって、賃金を下げるのはおかしい(14.2%)」と不満が大きい反面、「雇用が確保されるのだから、賃金の低下はやむを得ない(47.7%)」とする、諦めが広がっています。

つまり、会社は高年法改正に伴う雇用負担を理由に賃金減額を正当化し、労働者には不満が蓄積していることが見受けられ、両者の乖離は大きく、当該事案で労働紛争が今後多数発生することが予想されます。

■高年齢雇用安定法と高年齢雇用継続給付(雇用保険法)の沿革

■高年法改正の沿革
高年法は過去に何度も改正されています。
高年法の1990年6月改正で、継続雇用の努力義務が新設され「60歳以上65歳未満の定年に達した者が当該事業主に再び雇用されることを希望するときは、原則として、その者が65歳に達するまでの間、その者を雇用するように努めなければならない」旨を規定し、将来65歳までの雇用を義務化することを既に示唆していました。

ソフトランディングした結果が昨今の法改正なのです。
これまでに対応を怠った企業の責任も問われかねないのです。

特に参考となるのは、1994年の改正です。
施行は1998年4月から、それまでの定年(55歳)が60歳に引き上げられたのです。
つまり、国の政策で、それまでの定年退職としていた労働者を、引き続き5年間雇用しなければならなくなったのです。
まったく、昨今の高年法改正と同じ環境下にあったのです。

当時の企業の中には、定年延長後の雇用期間(60〜65歳)の賃金を下げた事案が多くあり、裁判で争いとなったのです。
当該多くの裁判で示された判旨を読み解くと、自ずと昨今の定年後の賃金減額が争われた場合に、どのような結論に帰結するのかが想像できるのです。


1976年改正
高年齢労働者(55歳以上)の高年齢者雇用率(常用労働者の6%以上)が設定され、努力義務となる。

1986年改正
事業主が雇用する労働者の定年の定めをする場合には60歳を下回らないよう努力する義務が事業主に課せられた。

1990年改正
事業主が60歳以上65歳未満の定年に達した者が当該事業主に再び雇用されることを希望するときは、原則として、その者が65歳に達するまでの間、その者を雇用するように努めなければならない旨を規定した。

1994年改正
事業主がその雇用する労働者の定年の定めをする場合には、当該定年は、原則として60歳を下回ることができないものとし、努力義務から60歳定年の義務化が図られ、1998年4月から施行された。

2000年改正
65歳未満の定年の定めをしている事業主は、@当該定年の引上げ、A継続雇用制度の導入、または改善その他の当該高年齢者の65歳までの安定した雇用の確保を図るために必要な措置を講ずるように努めなければならない旨を規定した。

2004年改正
高年法9条(雇用確保措置)、10条(公表等)は、2006年4月1日に施行された。
65歳未満の定年の定めをしている事業主が、その雇用する高年齢者 の65歳 までの安定した雇用を確保するため、@当該定年の引き上げ、A継続雇用制度の導入、B当該定年の定めの廃止の措置のいずれかの雇用確保措置を講じなければならないと義務付けた。
また、雇用確保措置を実施していない企業に対し、必要な指導及び助言を行い、指導に従わない場合は勧告することができる規定が設けられた。

2012年改正
労使協定により継続雇用基準を定める制度(2012年改正前の同条2項)が廃止され(経過措置あり )、新たに同条1項2号の継続雇用制度に、事業主が実質的に経営を支配することが可能となる関係にある事業主等(特殊関係事業主)が高年齢者を引き続いて雇用することにより雇用を確保する制度が含まれる旨が明記された(同条2項)。また、雇用確保措置を実施していない企業に対し、必要な指導及び助言を行い、指導に従わない場合は勧告することができるが、勧告に従わない企業に対して企業名を公表する規定が設けられた(同法10条)。2013年4月1日に施行された。

■高年齢雇用継続給付(雇用保険法)の沿革
雇用保険法の雇用継続給付の一つである高年齢雇用継続給付には「高年齢雇用継続基本給付金」と「高年齢再就職給付金」があり、被保険者期間が5年以上ある65歳未満の一般被保険者が、原則として60歳以降の賃金が60歳時点に比べて、75%未満に低下した状態で働き続ける場合に支給されます。

高年法が1990年改正で65歳までの雇用努力義務を定めたのに対し、継続雇用される賃金額より失業給付(基本手当)額の方が多く、定年退職者が雇用継続を選択しないという実務上の問題がありました。
これを解消するため1995年の雇用保険法改正で、60歳から65歳までの高年齢者の雇用の継続を積極的に援助、促進するという目的を達成するために、高年齢雇用継続給付制度が創設されました。
つまり、定年後の継続雇用による大幅な賃金減額を、雇用の継続が困難となる状態である失業に準じた職業生活上の事故と捉えて、失業給付(基本手当)の代わりとして収入を補填したのです。

これら高年法をサポートする制度のおかげで60歳定年後の継続雇用も進み、当該継続雇用の進捗と同時に高年齢雇用継続給付の支給額や国庫負担を減らす雇用保険法改正も行われてきました。

また、2006年施行の高年法改正で65歳までの雇用確保措置を義務化した関係から、2007年の労働政策審議会で、「高年齢雇用継続給付は本来の趣旨が薄れた」「高年齢雇用継続給付制度は、原則として2012年度までの措置とし、激変を避ける観点から、その後段階的に廃止すべきである」旨の報告がされたが、その後の日本経済の低迷等もあり現在に至っています。

しかし、高年齢雇用継続給付制度創設時の国会答弁で「高齢者の賃金を引き下げて高年齢雇用継続給付をその穴埋めにするというようなことはあってはならない」「高年齢者の低賃金を固定化したり、改善を阻害するといったようなことにはならない」とされていました。

定年後の継続雇用の労働条件を決定する場合、高年齢雇用継続給付の支給を理由として賃金を減額するのではなく、労契法20条の要件である「業務の内容」「業務に伴う責任の程度」「職務の内容及び配置の変更の範囲」を、定年前と変更することが求められます。

■関係法令
以前は無法地帯?でしたが、正規・非正規の問題が顕在したころから法整備が進み、現在は正社員とパート、正社員と有期契約社員との労働条件の差異を、一定条件下では認めないことになっています。
特に、労働契約法は判例法理を条文化した経緯や、他の法令も段階を踏んで厳しくなっている状況を認識しましょう。


○憲法14条1項
すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

○高年法9条1項
定年の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一  当該定年の引上げ
二  継続雇用制度の導入
三  当該定年の定めの廃止

○労働契約法3条2項
労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、または変更すべきものとする。

○労働契約法7条  
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

○労働契約法10条  
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。
ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りでない。

○労働契約法20条 (期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)2012年改正時に新設
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

○パートタイム労働法9条(通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止)2014年改正
事業主は、職務の内容が当該事業所に雇用される通常の労働者と同一の短時間労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されると見込まれるものについては、短時間労働者であることを理由として、賃金の決定、教育訓練の実施、福利厚生施設の利用その他の待遇について、差別的取扱いをしてはならない。

○世界人権宣言23条2項、国際人権規約(A規約)7条、ILO100号条約2条1項
全ての人は同一価値の労働について同一報酬を受ける権利を有する趣旨が定められており、このうち、国際人権規約(A規約)及びILO100号条約については、我が国においても批准している。
したがって、国内的法規範としての効力を有するに至っていることは明らかであるが、国際人権規約(A規約)の条項については、同条項を具体的法規範として法律関係に直接適用することは予定されておらず、締約国の国内法規と調和させながら、立法措置その他の全ての適当な方法によって人権規約による権利の完全な実現を漸進的に達成するため、自国における利用可能な手段を最大限に用いることにより、行動をとることを約束する(A規約2条1項)ものであり、ILO100号条約にしても、これとほぼ同様に解されるものである。


■裁判例
大栄交通事件(最判昭和51年3月8日労判245号24頁)
日本貨物鉄道(定年時差別)事件(名古屋地判平11年12月27日労判780号45頁)
一橋出版事件(東京地判平成15年4月21日労判850号38頁)
協和出版販売事件(東京高判平成19年10月30日労判963号54頁)
東京都自動車整備振興会事件(東京高平成21年11月18日労経速2063号21頁)
NTT西日本(高齢者雇用第1)事件(大阪高判平成21年11月27日労判1004号112頁)
NTT西日本(継続雇用制度・徳島)事件(高松高判平成22年3月12日労判1007号39頁)
X運輸事件(大阪高判平成22年9月14日労経速2091号7頁)
日本ニューホランド事件(札幌高判平成22年9月30日労判1013号160頁)
津田電気計器事件(最判平成24年11月29日判時1568号6頁)
小田運輸事件(大阪地判平成25年9月6日判例集未登録)
静岡鐵工所事件(静岡地判平成26年3月17日判例集未登録)
日本郵便事件(東京地判平成27年4月23日判例集未登録)

以下、省略